海外でコンサートを観るという特別な体験を求めて 細川真平さん

海外でコンサートを観るというのは特別な体験だ。
私はロックやブルースやジャズが好きなのだが、それらの音楽が誕生したのはアメリカやイギリスであり、そういう意味ではどうしてもそちらが“本場”ということになる(決して日本の音楽シーンやミュージシャンを下に見ているわけではないし、大好きな日本人ミュージシャンも数多くいることは念のために言っておきたい)。
そういう意味で、私にとって、“海外”、つまり“本場”でコンサートを観るということは、あまりにも特別な体験なのだ。

2004年には、アメリカ・テキサス州ダラスのコットン・ボウルで開催された、エリック・クラプトン主催の“クロスロード・ギター・フェスティヴァル”を観た。このフェスは3日間にわたって行われ、クラプトンはもちろんのこと、ジェフ・ベック、B.B.キング、バディ・ガイ、J.J.ケイル、ジミー・ヴォーン、ZZトップ、ジョン・メイヤーら、そうそうたるアーティストが出演した。
間違いなくこのラインナップでのフェスは日本では実現不可能であり、やや悔しい気持ちを抱きつつも、これが“本場”ということなんだな、と思わざるを得なかった。
たまたま隣で立って観ていた中年の白人男性に、「どこから来たんだ?」と聞かれたので、「日本から」と答えると、「そんな遠くから、このフェスのためにわざわざ!?」と驚かれた。そうさ、“本場”を体験するためにはしょうがなくてね、と私は心の中でつぶやいた。

2010年には、ニューヨーク州ベセルの、ウッドストック・フェスティヴァル跡地で行われたサンタナのコンサートに行った。ここは今では、Bethel Woods Center for the Artsという広大な施設となっており、野外コンサート会場もある。1969年のウッドストック・フェスでの熱演で世界的な人気を得たサンタナが、41年ぶりにこの地へ戻ってくる――その日、その場に私はいた。
演奏ももちろん素晴らしいものだったが、このロックの聖地で、サンタナが再び演奏していること自体が奇跡に思えた。MCで彼はウッドストック・フェスの話に触れ、ジミ・ヘンドリックスやジャニス・ジョプリンの名を口にした。そのときまるで、シャーマンとなったサンタナが、ジミやジャニスの魂をステージへ降臨させたかのような錯覚に、私はとらわれた(いや、正直なことを言うと、それは錯覚ではなかったと確信している)。
これもまた、“本場”でなければ(その上にいくつかの幸せな偶然が重ならなければ)、体験できない出来事だった。

こうした思い出を書き連ねながら、いま私は、またふらふらと海外へコンサートを観に行きたい衝動を抑え切れずにいる。

【プロフィール】
細川真平
1964年、香川県生まれ。早稲田大学卒業。出版社、レコード会社勤務を経て音楽評論家に。
ジェフ・ベックほか多数のCDライナーノーツ、国内外有名アーティストへのインタビュー、音楽誌の記事等を手がける。